今こそ中国へ!


 2012年12月16日の第46回衆議院選圧勝により、3年3か月ぶりに民主党から自民党への政権交代が実現しました。前回の第45回衆院選(2009年8月30日)で政権交代を果たした民主党に対して、国民は今回と同様に経済再生、Lehman Shock(2008年9月15日)後のデフレーション経済からの脱却を期待しました。しかしながら、ギリシャや欧州の経済危機が発生し、円高による輸出企業の国際競争力の低下が顕著となり、国内企業のリストラによる人員整理と失業率の増加に大多数の国民は失望し、再度の政権交代を招きました。日本経済のデフレ脱却に向けて、安倍政権は金融緩和や財政運営を柱に、製造業の復活策、健康、エネルギー、インフラ関連等の市場拡大策を中心に据えた成長戦略を模索中です。

 製造業の復活のための妙案は何か。円安化を促す金融・財政政策は、確かに輸出企業の健全な為替損益を確保するためには有効です。しかし、EUの経済危機の再発可能性やアメリカの財政の壁を本当に打破できるでしょうか。世界経済状況には、日本の政策限界を超えるリスクが今なお潜んでいます。健康、エネルギー、インフラ関連市場には、企業活動を阻んでいる規制が存在し、その改革も重要な課題の一つではあるが、より大切なのは「世界中で通用する売れる商品を開発すること」、それが製造業復活に繋がると確信しています。

 コンシューマ市場では、ヒット商品を開発し規模のビジネスを追求することが競争戦略となります。ICT(information Communication Technology)領域では、最近の代表的なヒット商品は間違いなくiPhoneです。数あるスマートホンの中でも洗練されたデザインと豊富な便利で使い勝手の良いアプリケーションで他を圧倒する人気を保っています。累積販売台数は3億台、周辺製品・機器市場も日本だけでも1000億円弱と言われています。韓国製スマートホンのギャラクシーも累積販売台数が5千万台で検討していますが、日本製スマートホン見る影も有りません。

 世界で通用する日本の技術がICTだったはずです。日本のバブル経済崩壊(1990年10月1日)の時期は、アナログからデジタルへと技術のパラダイムシフトが加速した時期に重なります。そして、デジタル化により日本の独自技術の装置化が容易に可能になり、小型・低価格商品の開発による欧米の装置との差別化、更には技術優位性も明らかになり国際標準化も強力に推進してきました。一方で、国際標準化活動等を通して技術のオープン化が進み、世界中のどのメーカでも類似製品の開発が可能となり、ハードからソフトへのシフトも加速しました。更に、1995年にWindows95が発売され誰もがPCでインターネットを利用できるようになるにつれて、アメリカを中心にネットワーク関連企業が急成長しました。しかし、アメリカ国内のネットワーク関連企業への過剰投資が原因で、日本でもITバブル崩壊(2003年4月28日)が起きてしまいました。それから10年、Lehman Shockが追い打ちをかけ、資金不足に陥った日本企業の設備投資、研究開発投資意欲は今尚衰退し、魅力的なヒット商品を産み出すこともできない負のスパイラルに陥っています。

 果たして、ICT領域での日本の製造業の復活はあるのでしょうか。コンシューマ市場の特徴は、快適で便利な商品の創出が求められることです。コンシューマ市場で勝ち残るためには、マーケットイン・プロダクトアウトの遂行、すなわち高品質・低価格な製品をユーザニーズにマッチしたグローバルに通用するファッショナブルなデザインやサービスにより快適性や利便性に関る付加価値を高める工夫の追求ではないでしょうか。日本企業は、失われた20年間、少品種大量生産を重視し、高収益追求リスク回避型の経営を行ってきました。しかし、iPhoneのような大ヒット商品を創出できず、失敗に陥ってしまうケースがほとんどでした。ならば、多品種少量生産の道を歩むことは有り得るのか。少量生産により明らかに商品価格は上昇します。価格値上がりに伴う付加価値の増加が無ければ誰も買ってくれないことも明らかです。ユーザニーズにマッチしたグローバルデザインとサービスにより快適性や利便性の向上が今後のコンシューマビジネス成功の秘訣となることは間違いなさそうです。

 東日本大震災(2011年3月11日)とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の放射能漏洩事故により、日本国民は公共システムの安全性に対して大きな疑念を持つようになりました。さらに、中央自動車道笹子トンネル崩落事故(2012年12月2日)により、公共施設の老朽化対策が緊急であることを知りました。施設の運用開始が30年前と言えば1980年代、40年前と言えば1970年代、インターネットもデジタルも無く、殆どがアナログ技術だった頃の熟練工の技に頼っていた時代の成果物が次から次へと使い物にならなくなっています。その対策として、今後の公共システムの構築には、最新のICTを活用したセンサーネットワークが有効であることは間違いありません。

 2010年時点の高速道路、高速鉄道、航空機等の公共インフラの整備・利用状況を中国、アメリカ、ドイツ、日本の4か国で比較すると、

アメリカ:モータリゼーション発祥の地。高速道路と空港を高水準に整備、車と航空機産業が巨大。

ドイツ:アウトバーン発祥の地。EUの中核。3つのインフラを高水準に整備。車と鉄道産業。

日本:アジアの先進国。ドイツに比べ低いインフラ整備。車と鉄道産業。

中国:2008年10月から2010年に4兆元(57兆円)の公共インフラ投資。今尚、低水準な公共インフラ整備率。

となっています。

 中国は、2011年にGDP世界第2位の経済大国となり、今後の更なる経済成長に伴い、ハイテク産業、公共インフラ整備関連で巨大な伸びしろが有ります。日本は、地震が無ければ、住み心地の良い安全・安心な国です。日本から中国への公共インフラ関連の技術移転を行うことが可能か、技術面に加え制度面においても可能性検討を行うことが必要です。今敢えて中国で活動する!

 

                                 2013年2月1日

                                   徳田 清仁